蝶々喃々
小川糸さん/ポプラ社
文体が美しい
恋愛に関しては直接的な表現が無く、読み心地の良い作品
想像で解釈する場面が所々あるため(春一郎関連)
全て余すところなく把握したいタイプには向かないかもしれない
全体を通して丁寧な作品
特筆すべきは下記描写の細かさとリアルさ
❶四季折々の自然や現象に対しての主人公の感想
ex(薄氷・鯉のぼり・花の香り・空の色など)
❷食事や建物の説明の細かさ
ex(素材の香り・包丁の音・食感など)
特に食事に関しては圧巻だった
素材を揃えるために散歩がてら立ち寄ったお店の雰囲気や
送ってもらった桃を段ボールから出した時の香りなど
想像し易く、共感し易かった
また、花が咲く描写を音に例えている場面があった
『池の方に耳を澄ますと、花が咲く瞬間の音が聞こえてくる。
まるで、笑いたいのを必死に堪えて、でも堪えきれずに思わず吹き出してしまったかのような音だ。』
(上記本文抜粋)
非常に美しい感性だと思う
花が咲く音など想像したこともない
私の貧相な感性と語彙を駆使して想像したところで
「パッと咲いたような」「ゆらりと咲いている」など
緩急をつければ良い、というような雑な表現しか思いつかない
それを笑い声に例えるなど、想像もしなかった
だが、不思議としっくり当てはまるような気がする
他にも「風をたっぷりと孕んで泳ぐ鯉のぼり」や
「花火からはたくさんの流れ星が生まれては消える」
などといったように、とにかく表現が美しい
丁寧に豊かに生きている主人公の1年間を語るにはもってこいの語り口調で
まったく違和感なく読み進めることができた
男女間の歪な関係も、きれいな表現で描かれているため
特有のいやらしさがなかった
気持ちが疲れてご飯を食べるのも面倒な人にオススメ